焼酎は、醸造酒である清酒とも違う黒麹および白麹を利用するという独自の発展をしてきました。
科学もまだまだ発達していない、感覚だけで酒を造る時代に職人たちの努力によって開発された薩摩の本格焼酎について、その七不思議シリーズとしてご紹介していきます。

今回はその第3弾で最終回となりますが、自分のスタイルに合わせて飲める秘密や鹿児島でサツマイモからお酒が造られることになった歴史と背景についてのお話しです。

第一弾はこちらから → 本格焼酎の七不思議(1)

第二弾はこちらから → 本格焼酎の七不思議(2)

その6 低濃度で飲まれる蒸留酒

甲類焼酎が全国的に生のまま(アルコール度二五度)飲まれることが多かったため、ある時期まで焼酎とは安い価格で、強酔するものとのイメージが定着していた。一般的な蒸留酒の飲み方をしていたのである。
これに対して本格焼酎の本場鹿児島では薄めて飲まれていた。ろくよん六:四(焼酎と水または湯の比が六対四)でアルコール分一五度、五:五で一二・五度、四:六で一〇度と清酒と同等か、それ以下のものを飲んでいたのである。一般にどの酒も水を加えると酒が水っぽくなりバランスを崩し、飲めたものではなくなる。しかし本格焼酎はいくら水で割っても水っぽくならない。
特にお燗をすると焼酎と水がなじみ、新しい感じの焼酎に変わるから不思議である。お燗をすることで、四〇度から四五度の温度が焼酎を甘く、旨く飲ませてくれる。この特徴こそ麹の使用と並行複発酵法のもろみを単式蒸留機で一回蒸留するという本格焼酎の製法によるものである。

本格焼酎の成分は水とエチルアルコールの他に、〇・三%ぐらいの微量成分を含んでいる。このわずかな微量成分が、どんなに水で薄めても本格焼酎の風格を保ち、しかもいも焼酎らしさ、米焼酎らしさ、麦焼酎らしさを決定するのである。したがって、微量成分こそ本格焼酎の命である。

鹿児島のいも焼酎が北上をはじめた昭和四〇年代、博多界隈から焼酎は酔い覚めがさわやかであると、思いもしないことを聞くようになった。焼酎にどっぷり漬かっている者にとっては意外な情報だったのである。身近にありすぎて本格焼酎のよさに気付かず、見過ごしていたことだった。醸造酒に比較してお湯割りのいも焼酎は酔いが早く、適度に酔い、酔い覚めが早いということで、仕事に差し支えない健康的な酒として愛飲家たちの口コミになっていた。本当に県外の人々から教えられた新しい発見である。薄めても旨い本格焼酎は、自分の体調に合わせほんのりと酔う、コミュニケーションを楽しむ酒として、これからの時代に合った酒であるといえる。

その7 サツマイモの蒸留酒

サツマイモは中南米を原産にアフリカ・東南アジアを経由して一八世紀初頭から薩摩で栽培されるようになった。鹿児島は稲田が狭く米は庶民の食卓を満たすものではなかった。土中に育つサツマイモは鹿児島の火山灰土壌に適し、幾度となく食糧飢饉を救ったと言われている。

サツマイモは庶民の主食だったのである。酒の原料は主食と深い関係があるので、薩摩でサツマイモを利用して酒を造ろうと思い立っても不思議ではない。『西遊記』に「琉球芋も酒に造る。味甚だ美なり。其外民家にて黍(きび)・粟(あわ)・稗(ひえ)の類も皆焼酎に造るよしなり」とあるように、少なくとも二百年以前にいも焼酎がおいしく飲まれていた。

米や雑穀の焼酎が先で、いも焼酎は後から造られたのであるが、穀類原料が安定した原料であるのに対し、貯蔵のきかない、腐り易いサツマイモの酒造りは並大抵のことではなかったと思われる。現に、南谿には「味甚だ美なり」と絶賛されたが、明治の中ごろに書かれた本富安四郎の『薩摩見聞録』には、「少しく之を飲めば衣服悉くにほふ」と書かれ、また、「こめん(米の)焼酎を上品とし、からいもん(サツマイモの)焼酎は下品」と、品質の評価が分かれていた。

今では、鹿児島で酒といえばいも焼酎のことになった。これは、いかにしておいしい焼酎を造るかについての努力が重ねられたことを物語るものである。決定的な技術開発は一次・二次もろみ製造方法にあるとはいえ、サツマイモの性質をうまく利用したことも大きな要因になっている。千六百年代の中国南部にいも焼酎があったといわれているが、薩摩で完成されたいも焼酎は世界の蒸留酒の中でも異彩を放つ存在といえる。

出典
鹿児島県本格焼酎技術研究会『鹿児島の本格焼酎』(春苑堂出版、2000年)

2013年4月30日 火曜日 掲載

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